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  今回は久しぶりに試写会に行った。映画の配給会社とアムネスティが共同で開催した、「シンポジウム付き特別試写会」だ。この映画はアメリカの"不法移民" を扱った映画なのだ(国連関係機関や市民団体は、「不法移民」ではなく、「非正規滞在者」という言葉を使っている。「不法」という表現が、あたかも重大犯 罪のようイメージを与えるからだ)。
  タイトルは『正義のゆくえ-I.C.E.特別捜査官』(原題は"Crossig Over"、「境を越える」)。I.C.E.とは移民・関税執行局(Immigration and Customs Enforcement)のこと。2001年の9.11テロをきっかけに、移民局を再編成した組織だ。テロ事件の阻止を目的に、以前より厳しく非正規滞在 者を摘発するようになった。I.C.E.捜査官の人数は2万人と、FBI捜査官(1万人)の2倍にのぼるという。この映画は、I.C.E.の捜査官である マックス(ハリソン・フォード)を主人公に、さまざまな境遇の移民たちと、彼らに関わる移民判定官、弁護士、FBI捜査官などの姿を描いている。

  マックスは人情派のベテラン捜査官。強制退去処分にしたメキシコ人女性の子どもを、メキシコの家まで連れて行く。同僚のハミードはイラン革命で祖国を逃 れた移民の息子だ。ハミードの妹ザーラはコピー店の店主と付き合っているが、この男はグリーンカード(永住者カード)偽造に手を染めている。
  この男にグリーンカード偽造を頼むのが、女優を夢見るオーストラリア人女性、クレア。I.C.E.の移民判定官コールは、クレアに市民権を与える代償に 性的関係を迫る。クレアの恋人ギャビンはミュージシャン志望のユダヤ人で、市民権を取るために、ユダヤ教のラビ(聖職者)になりすます。
  一方、コールの妻デニスは、難民や移民のために働く弁護士で、子どもがいないため、外国人収容所に一人ぼっちで入れられている幼いナイジェリア人少女を 養女にしようと考える。そのデニスが引き受けた事件は、高校の宿題で9.11テロの犯人に同情的なレポートを発表したために、FBIの捜査を受け、家族と 離れて国外退去処分を受ける、バングラデシュ人少女のタスリマ。

  さらに、マックスがいつも利用するクリーニング店の店主は韓国からの移民で、その息子は市民権獲得を目前にしながら、悪い仲間に誘われて、強盗に入ってしまう。そこに居合わせたのが、妹ザーラを殺人事件で亡くしたばかりのハミードだった...
  …という具合に、ストーリーをたどると、ミステリー・ドラマのようにスリルに満ちている。だが、そこに描かれているのは、アメリカという希望の国に未来 を賭ける移民たちの、成功と挫折のドラマだ。ある人は偶然や善意に助けられてグリーンカードを手にし、ある人は家族と引き裂かれて強制退去させられ、ある 人は命を落とす。国と国とを隔てる国境が、こんなにも多くの人の運命を変えるのだ。この映画は、そんな重たい現実を描きながらも、映画としても十分に楽し ませてくれる。

  終了後のシンポジウムでは、アムネスティや国際移住機関(IOM)、日本で難民・移民を支援する弁護士らによる、移民の現状報告が行われた。難民・移民 など国境を越えて移動する人々は世界人口の2%。アメリカの非正規滞在者は1,100万人。日本の外国人登録者数は221万人で、非正規滞在者は2003 年には25万人だったが、入国管理局や警察の取り締まり強化によって、5年後の2008年には、ほぼ半減したと言われている。
  日本はこれから高齢化と人口減少を迎え、移民の増加は避けられない。場当たり的な取り締まりは、無用な混乱を招くだけだ。この映画は、日本にとっても決して他人事ではない。今こそ、総合的な移民・難民政策が求められている。

柴田 幸範(イエズス会社会司牧センター)